夫婦が離婚し, 請求に基づき相手方に財産を渡すことを財産分与といいます。この場合, 財産を渡した人に譲渡所得が課税されます。では, この課税関係を十分に理解せず元妻に土地・建物を引き渡した後, 2億円を超える納税義務が課された場合, どうすればよいのでしょうか。。財産分与が錯誤(まちがい)だったとする主張が認められるのでしょうか。
最高裁平成元年9月14日第一小法廷判決は, この点につき以下のような判断をしました。

「意思表示の動機の錯誤が法律行為の要素の錯誤としてその無効をきたすためには,その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり,もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要するところ(最高裁昭和27年(オ)第938号同29年11月26日第二小法廷判決・民集8巻11号208頁,昭和44年(オ)第829号同45年5月29日第二小法廷判決・裁判集民事99号273頁参照),右動機が黙示的に表示されているときであっても,これが法律行為の内容となることを妨げるものではない。
 本件についてこれをみると,所得税法33条1項にいう「資産の譲渡」とは,有償無償を問わず資産を移転させる一切の行為をいうものであり,夫婦の一方の特有財産である資産を財産分与として他方に譲渡することが右「資産の譲渡」に当たり,譲渡所得を生ずるものであることは,当裁判所の判例(最高裁昭和47年(行ツ)第4号同50年5月27日第三小法廷判決・民集29巻5号641頁,昭和51年(行ツ)第27号同53年2月16日第一小法廷判決・裁判集民事123号71頁)とするところであり,離婚にともなう財産分与として夫婦の一方がその特有財産である不動産を他方に譲渡した場合には,分与者に譲渡所得を生じたものとして課税されることとなる。したがって,前示事実関係からすると,本件財産分与契約の際,少なくともXにおいて右の点を誤解していたものというほかはないが,Xは,その際,財産分与を受けるYに課税されることを心配してこれを気遣う発言をしたというのであり,記録によれば,Yも,自己に課税されるものと理解していたことが窺われる。そうとすれば,Xにおいて,右財産分与にともなう課税の点を重視していたのみならず,他に特段の事情がない限り,自己に課税されないことを当然の前提とし,かつ,その旨を黙示的には表示していたものといわざるをえない。そして,前示のとおり,本件財産分与契約の目的物はXらが居住していた本件建物を含む本件不動産の全部であり,これにともなう課税も極めて高額にのぼるから,Xとすれば,前示の錯誤がなければ本件財産分与契約の意思表示をしなかったものと認める余地が十分にあるというべきである。Xに課税されることが両者間で話題にならなかったとの事実も,Xに課税されないことが明示的には表示されなかったとの趣旨に解されるにとどまり,直ちに右判断の妨げになるものではない。
 以上によれば,右の点について認定判断することなく,Xの錯誤の主張が失当であるとして本訴請求を棄却すべきものとした原判決は,民法95条の解釈適用を誤り,ひいて審理不尽,理由不備の違法を犯すものというべく,右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから,この点をいう論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本件については,要素の錯誤の成否,Xの重大な過失の有無について更に審理を尽くさせる必要があるから,本件を原審に差し戻すこととする。」

この判決は,夫が保有する不動産全部を離婚に際して妻に財産分与する契約において,夫が自分に課税されることがないと誤解していた場合に,その錯誤が,動機の錯誤ではあるが,相手方に黙示に表示されたものとして要素の錯誤になり得ることを認めました。課税負担に関する動機の錯誤が契約の無効原因となり得ることを認めた最高裁判決としての先例的な意義があるとされています(1)。

[注]
(1)東亜由美「税負担の錯誤と財産分与契約」租税判例百選 第4版 別冊ジュリストNo.178(平成17年,10月)35頁を参照。

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